キーチェーンはいつもベルトに噛ませてあった。置き忘れたことはあっても落ちたことはなかった。
ガソリンスタンドに空気圧を補充しにいった。バイクから降りるのと同時にチャリっといって鍵の束が落ちた。つるつるしたコンクリートの床を打ってやけに静かに響いて聞こえた。
十二年半。十二年半のあいだいつも腰にぶらさがっていた。ひとり暮らしをはじめるときに母が贈ってくれた。はじめ家の鍵をつけた。次にスーツケースの鍵をつけた。バリで買ったきれいな音のする鈴をつけた。なにかのおまけでもらったビール瓶の栓抜きをつけた。家を住み替えるたびにあたらしい鍵をおさめて守ってくれていた。いくつものホステルの鍵、いくつもの美術館のロッカーの鍵もぶらさげて、世界中あるいた。
十二年半たっていよいよこわれた。走行中に勝手にちぎれることもできたのに、停車するまでもちこたえて絶命するところがあわれだ。壊れかけていることさえ気づかせずに最後までよく機能してくれたとおもった。ちぎれたあとに残った機能しないオブジェは捨てるにしのびなくて、しかし使いみちもないからうっちゃってしまってある。