ロサンゼルスにきました。一年ぶりの訪問、盲腸をわずらったあの旅行から一年ごしの再訪です。土曜日の夜に羽田を発つ夜行便にのって、到着したら土曜日の昼です。
アメリカン航空の便にはアメリカ人がたくさん搭乗していた。いや容貌と話す言葉だけで国籍を決めつけてやるのは失礼か、とわずかに自重もしたけれど、着陸したあとの入国手続きの、一年前は90分待ちくらいの長蛇の列を待たされた非アメリカ市民のパスポートコントロールが、たかだか五人か十人くらいのちいさな列しかなくてすぐに通過できたから、やっぱりアメリカン航空を降りた彼らはほとんどみんながアメリカ人だったにちがいない。
羽田の待合室では、機内に手荷物をいれるためのスペースに余裕がないかもしれない、無料で終着地まで輸送するからボランティアは名乗り出てくれ、と繰り返しアナウンスしていて、満席であることをにおわせていた。でも搭乗してみると、三列の並びの通路側に腰掛けて、ぼくの隣は空席だった。ありがたいこと。
通路をはさんで斜め前に更年期くらいの女性がいて、身体がわるそうにみえた。パートナーとおもわれる男性がつきそっていて、搭乗するひとの列をさえぎって通路をブロックしていた、どうしてもこのひとのそばを離れられないというふうに。女性の隣の席が空いていたから、おおかた座席の交換を願い出るために張り付いているのだろうとみえた。ぼくも自分の隣の席が空席なのか、それとも最後の瞬間にだれかが乗り込んでくるだろうかとそわそわしていたので、同じ気持ちで視界の端にみていた。いいカップルなんだとおもった。そして搭乗はおわって、ぼくたちはおたがい空席を手に入れた。男性はその女性のとなりにすべりこんだ。しかしそこから、彼は彼女をガヤガヤと叱責つづけてたえまなく、ひととおり自分の文句をいいおわったら、イヤホンをつけて機内サービスに没頭して、自分ひとりの世界にはいっていってもどってこなかった。どうやら介助しあうことが目的でなくて、自分の目のとどくところにおいて一方的にコントロールするのが目的だったのかとみえて、あいまいな気分になった。が、これは到着したあとしばらくして不意におもいだした話にすぎない。離陸したあと眠っているうちに忘れてしまった。
フライトは揺れに揺れて快適ではなくて、シートベルト着用サインはほとんど点ったまま消えなかった。乗り物酔いをおこすほどに揺れた。かなりつらいぞ、とおもいながら耐えているうちに、気付いたら眠ってしまっていたから、あんがい身体も適当なものではある。もっとも、日本時間の深夜に飛ぶ夜行便だったから、体内時計にとって眠りやすいような環境ではあった。
入国審査を抜けたさきで、あらかじめ買って自宅に届けておいたSIMカードのセットアップをした。東京にいるうちにやっておけばよかったと機内で気がついた。というのは、利用開始の手続きをするためにインターネットが必要なのだけれど、手続きをしないとインターネットは使えないから、即座にデッドロックをおこすのだ。日本の回線で手続きをしておけばよかった。手続きしたら即座に有効になってしまうわけでもなくて、スケジュールして有効化するというオプションもあったから、なおさらだ。
入国審査のインタビュー中に滞在先の住所を問われた。住所のメモはローカルに保存していなくてインターネット越しにしかアクセスできなくて、パスポートコントロールの会場は回線が乗り入れているのかいないのかあいまいな電波状況だった。かろうじて審査官の目の前でアドリブで電波を探してみたら、ぎりぎり回線をひろうことができた。そうして正しい住所を答えられたからよかったものの、あのゲートに微弱な電波が乗り入れていなかったらややこしいことになっただろうとおもう。つぎにまた訪米することがあったら、海外用のSIMカードは家をでるときにでもさっさと開通させること。これがいまのところ、いちばんおおきな(でもおおごとにならずには済んだからいまにも忘れそうな)いましめである。
スーツケースを回転台から拾いあげて、出口をでたら、待ってくれるひとがいて花束をもってでむかえてくれた。緑に白がちりばめられたきれいな、おおきな花束だった。
ユニオンステーションへのシャトルバスを待って、乗り込んで、フリーウェイの快速レーンを大型バスがかっ飛ばして渋滞を避けていくのを痛快にながめた。カープールレーンとかいって、相乗りじゃないと通れないみたいな通行帯ルールがあるみたいだ。料金所も分離帯もないようにみえて、見かけ上はだれでもどこからでもやろうとおもえばいつでもすり抜け可能にみえるけど、誰もやらずに渋滞にとどまっておとなしくしているところをみると、なにかすごい監視テクノロジーがあって、通行帯違反は簡単に捕まるんだろうなとおもった。おじいさんおばあさんが水中ウォーキングをするのにほぼ全面をつかっている市民プールで、いちばん端のレーンだけは競泳レベルの泳者たちがスプリントを競うために開け放たれていて、実際スプリンターが猛スピードでそこを突っ走っている、みたいな不思議な景色だった。
すみかに到着したのは午後4時ころで、疲れこそたまっていたけど、これからひと眠りするよりは夜を待って正しい時間に眠って、時差ボケを直してみよう。そういっておみやげをひろげて、お祝いのステーキとケーキをたべて、じゅうぶん休んで落ち着いてから堂々と寝る。