なにかが違うと感じた。メガネが曲がっていた。

寝るときにはかけていなかった。運動時にもかけていないし、床において踏んだわけでもない。思い当たることはひとつ、前の晩に丸の内までバイクを走らせた。フルフェイスヘルメットに挿しこむみたいにかけたときに、自分で気づかないくらいの傾きが、そのままフレームに歪みをあたえたにちがいない。

最寄りのメガネ屋さんにかけこんで、応急処置をしてもらった。原付き乗りにのるという女性の店員が、もとに戻せるくらいの歪みでよかったですよと励ましてくれた。細いフレームのメガネとフルフェイスはいかにも相性が悪いから、スポーツ用のやわらかいフレームか、肉厚系の黒縁メガネがいいと教わった。いっぽうでインターネットの知識によると、スポーツ型のフレームでもゴムで肌をつかむ種類のものはやっぱりヘルメットに挿しこむには都合が悪いし、太いフレームの頑丈なメガネも、ヘルメットのサイズを再調整しないと苦しくなるかもしれない。

いちばんいいメガネを即座に決めるのはむずかしそうだ。それでいて、お気に入りのメガネをもういちど歪めるかもしれないリスクは願い下げたい。それで、安価でいつでも壊れてもいいメガネをひとつ手っ取り早く作ることにした。ジンズのウェブサイトに、ヘルメットの特集記事があったので、それをそのまま探しに最寄り駅前のジンズで、すぐにつくった。オプションなしで一万円を切った。

部屋着のように使っているずたぼろのメガネがあって、それはもう十年以上もっているのだけど、三年前からリムの塗装がみにくくはがれてひとまえにはかけて出られないから、運動用に汗でぐちゃぐちゃにしてもいいメガネとして運用していた。新しく作ったメガネには、これを置き換えてもらおう。バイクに乗ることはスポーツで、スポーツにはふさわしい道具とそうでないのがある。ジンズのメガネは、無個性で興味を持たなかったけど、なるほどこうして使えばいいのかと便利なユースケースを発見してありがたくおもった。ライディングギアはしばしば高くつくけど、これはずいぶんいい買い物ができたと素朴におもうことのできるのは幸運なようでもある。