ル・シネマ渋谷宮下で『幻の光』をみた。能登半島地震のためのチャリティ上映で、是枝裕和さんの長編第一作が再上映されたのだった。映画はぼくの生まれたころの輪島市の姿を映している。

嵐がおきてそのまま帰ってこられなくなったひとのことをぽつねんと思いだす映画

暗い部屋の窓の外、頭よりうえにある水平線、暗く光るおおきな海

線路の上を歩いていて死んだ、三ヶ月の男の子と自転車の鍵だけ忘れ形見にして

甲子園から盗んできて緑のペンキで塗り直した自転車

雨の日だった。傘を取りにいちど帰ってきて、ふらふら歩いて出ていった。振り向いてはくれなかった。夜、警察がきた。

山の裾がそのまま海につながってある輪島。夜に躁がしい海。裸で触れると暑い夏。どうしてとおもえば気の紛れない時間。誰にいえないまままた深まるもう終わった悲しさ

忘れたとおもって忘れていないこと。忘れたままになっていること。変わらないでいたいわたし、変わりつつあるわたし、変わってしまったわたし。だいこんをこするたわし。

老婆がひとり呑みこまれた海の嵐。よみがえり取りだした三杯の蟹、三杯の蟹。