NHKホールでN響の定期演奏会を聴きました。沖原まどかさんの指揮です。のびのびしてたのしい演奏会でした。

まずイベールの「寄港地」。続いてピアノにデニス・コジュヒンさんを招いてラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」。最後に東京混声合唱団から18名の女性コーラスを招いてドビュッシーの「夜想曲」です。

沖澤さんの指揮をみるのははじめてです。きびきびしてせわしなくはなく、おだやかでものんびりはしない。めりはりがあって、観客席からもはつらつとしたパフォーマンスだったようにおもいます。

プログラムの三曲はいずれも20分前後の中編です。それでいて、各曲がいくつかもテーマをきらびやかに提示してきらめきます。最後にはちょうど一枚のアルバムを聴き通したような爽快感がありました。それを束ねて糸をとおしたことが、きっと沖澤さんの手腕なのでしょう。

イベール「寄港地」の第一曲はしずかな弦のなびきではじまります。すぐに晴れやかな祝祭のムードを呼び込み、解放感で浮足立って朦朧とさせます。オーボエがオリエンタルな音階を吹いたあとで、西洋式のワルツの盛大さもやってきます。めまぐるしい遷移ですが、飽きも疲れもしません。

ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」は、コントラバスとバスクラリネットのおそろしく重い導入部にはじまって、徐々にオーケストラがふくらみます。そしてピークに達した瞬間に、一本の腕がピアノのうえを走って、長いソロです。デニス・コジュヒンさんはスプリンターのようにギラギラした集中力をステージで放っているのが遠くの席からでも嗅ぎ取れた気がします。オーケストラが休符となるあいだ、彼のソロを背中で受け止めて粛然と立つ沖澤さんの存在感も印象的でした。ピアニストへの大喝采のあとのアンコールは、チャイコフスキー「子供のアルバム」より最終曲「教会にて」です。

ドビュッシーの「夜想曲」は、魔術的な管のアンサンブルで幕を開けます。無時間的でモーダルな音楽が数種類提示されます。複雑なリズムもおおいに含んでいます。やがてコーラスの繰り返しが幻想をもたらすようにして、静かに収束します。歓喜のピークで終演する種類のプログラムでなくて、静かに閉じていくのが気に入りました。

素晴らしい演奏会でした。沖澤さんの演奏をもういちど聴きたいというのをこらえられなくなりました。それで8月の、セイジ・オザワ松本フェスティバルのオーケストラ公演のチケットをおもいきって予約しました。行こうか行くまいかの葛藤がこの日の演奏でするりとはがされました。たのしみにしています。