NHKホールでN響の定期演奏会を聴きました。スクリャービンの初期作をあつめたプログラムです。「夢想」「ピアノ協奏曲」そして休憩を挟んで「交響曲第二番」の三曲からなる公演です。
「夢想」はごく短い管弦楽曲です。あらかじめ録音を聴いて予習したときには小さなオケの小品という印象でしたが、ホールで聴く演奏はまったく異なる印象を残しました。木管にみちびかれて静かにはじまった音楽は、はじめ浮遊感のあるモダンな響きですすみます。中盤で弦楽が叙情的なメロディを合奏して悲しげな高揚感をうみます。そこまでものの2分くらいだったのに、いっきに感情を掌握されてしまったおもいでした。いい演奏だったとおもいます。
「ピアノ協奏曲」は反田恭平さんを招いてはじまります。原田慶太楼さんの指揮するN響とのコラボレーションは3度目だといいます。ショパンの演奏で知られる反田さんが、ショパンの影響下にあるとされるスクリャービンを弾くということのおもしろさがプログラム・ノートにハイライトされています。演奏は、原田さんと反田さんがアイコンタクトをしながらたがいに盛り上げあって、たのしかった。でもショパンもラフマニノフもあんまりわかっていないことが、スクリャービンというレパートリーがどうおもしろいのかをちゃんとたのしむことの妨げになってしまったかな。眠っていたわけでもないのだけれど、気がついたら音楽が通りすぎていっていってしまった気がします。それか二階席のうしろのほうじゃなくて、もうすこしステージに近いところで聴いていたなら、オーケストラとピアノがもっとよく混ざって聴こえたのかなともおもいます。万雷の拍手が浴びせられるのを聞くにつけて、もしかしてなにかを聞き逃してしまったのだろうかという後味が残りました。
「交響曲第二番」は、冒頭でクラリネットが低く吹くメロディが形を変えて繰り返されながら進んでいきます。音のかたちか進み行きか、なんとなく「トリスタンとイゾルデ」の序曲を思い出させました。プログラム・ノートによると、フルートがもうひとつの主題を提出して、クラリネットのものとあわせてふたつの主題が交差しながら進行するのだそう。でもクラリネットの第一主題のほうに気を取られて、フルートの第二主題のほうは見失ってしまいました。全五楽章のうち、明るく華やかな第四と第五楽章のまとまりこそ注目するポイントになるかなと予想しておとずれましたが、第三楽章こそ優れていたようにおもいます。軽やかで美しいフルートがすばしこく巡って、かわいらしい小楽章かとおもわせたところ、後半にかけてオーケストラが厚みをふくらませて、はちきれそうな情感をまとわせて高揚するハイライトにいたります。これがずいぶん気に入りました。もちろん、第五楽章のファンファーレと大団円もよい。
指揮の原田さんは全身をおおきく動かして、オーケストラから音を吸い出して集めるようです。あちらこちらに細かくキューを出して過剰にみえかけるときがありましたが、やがてこのように堂々たるリードがあってこそ安心して乗っかることのできる一面もあるのだろう、ともおもいました。白人の、それなりに高齢の指揮者が振るオーケストラを見慣れてしまったから、エネルギッシュな大小の身振りで躍動するのが新鮮にみえたのかもしれない。いずれにしても、いい演奏でした。