新宿ピカデリーで『オッペンハイマー』をみた。
いそがしい話だった。みんな早口でしゃべっていてせわしないが、テンポはよかった。頭がさえていたらもっと違う反応ができたのかもしれない。好きな映画ではないが、嫌いな映画でもない。感想は希薄で、ここに書くことも三ヶ月後にはわすれてしまっているかもしれない。
爆発シーンがよかった。ニューメキシコの四方暗闇を背景にした火の柱はきれいだった。いい映像だとおもった。
音楽もよかった。審問官の追求がモンタージュみたいに断片的につなぎあわされて言葉の波みたいに乱れ打ちするところ、いったいこのひとはなにをいっているんだろう、ぼくはなにをいわれているんだろうというオッペンハイマーの内的世界をみせるみたいな効果でよかった。そこでは音楽にじっくり耳をすませる余裕はなかったけど、すごく神経質で不安定な音とリズムがあてられていた気がする。
アインシュタインがオッペンハイマーを諭すようにこう語るところがよかった。やがて和解はおとずれるだろう。あなたが報われるだろうというんじゃない。あなたは最後まで彼らの独善につきあわされる。あなたを蹴ってつばを吐いた彼らのためにあなたは和解の場をもつだろう。でもそれでいい。もう恨んでもいないのだから。
このふたりの対話を最後にもってくるのは、騒々しかった映画の末尾にわずかな静けさを残してよかった。もっとも、ストローズの被害妄想がこの対話を導入するのは嫌いだった。アインシュタインを沈黙させたひとことがなんであったか。映画の序盤から秘密にしてきたそのひとことは、秘密のままにしてあるほうがよかった。