宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』を観た。
世界は神様の積み木あそびのようなもの、気まぐれと偶然であっけなく崩壊する。そのおごそかな積み木あそびを孤独にになうよりも、戦争にみちた悪意の地獄でなんにんかの友だちを見つけてなんとかともに生きることをぼくは選ぼう。「どう生きるか」という問いかけに用意された答えはこういうものだと受けとって、まずぼくは満足している。
神話・幻想・超現実にみちた、夢のようにとりとめのない冒険こそ、夢のようにとりとめがないからこそぼんやりと眺めてもわくわくする。どんなひとつのテーマにも従属しない多義性をたずさえた、たのしい想像力のスープだった。いったいなにが起こったのかと解析することは目指さないで、ただ画と音と夢のなかに沈むためだけになんどでも観たいとおもわせるすばらしい映画。
眞人(山時聡真)にとってのふてぶてしい父(木村拓哉)は、金にものをいわせてガハガハと騒がしい壮年で、静かで繊細な映画のなかでひとり浮ついたひとのようにしばらくみえたが、直情型の人格がはじめからおわりまで一貫してなんの反省も衒いもないことが最後には清々しかった。いさましく山狩りに出かけようとするときに板チョコをポケットにしのばせる描写が妙に心に残った。この俗な存在、俗な身ぶりこそ、おそろしい想像力の世界から現実の世界に帰ってきた安心感をもたらすんだろう。