初回の教習から年末年始を挟んで六週間くらいでの卒業となりました。

週末のお昼に受検しました。検定はおおむね隔日で実施されていて、最初にとれたスロットが週末だったのです。

最後の教習を受けたのは三日前です。間があいてすこし不安はありました。

しかも天気予報はよりによって雪予報です。いままでの教習は寒かったとはいえ降雨があったことはありませんでした。なれない雨具をつけてどれだけ落ち着いて運転できるかは未知数で、しかもそのありさまを合否判定につかわれるというのは落ち着きません。

不合格となってしまったら実費でひとコマぶんの再履修を受けなければなりません。またぞろ予約を取ったり待ったりするのは時間がかかってやりきれません。つまり、一発で合格してさっさと卒業したいという欲望はつよく、欲をかいたぶんだけ緊張もあったのでした。

当日は十一時に登校して、ヘルメットの準備をして、待合室でコース取りの復習をしました。四輪車の教習生たちが待合室からぞろぞろとはけていったあとに残された四人の受験生がやがて呼び出されて、教習コースの真ん中にぽつんとある小屋にあつめられます。そこで検定コースの発表です。

普通二輪 AB コースという、第二段階の教習の前半で周回したコースを走ることが伝えられました。ラミネートの資料をわたされて、そこにコースの概要と検定中のルールが書かれています。検定員が読み合わせながら注意点をハイライトしてくれます。ハンドルを握ったら検定がはじまって、検定がはじまったらもう検定員は一切助言できないから、ということで、あらかじめ親切を配ってくれているわけです。四人が検定を受ける順序が発表されたら、資料は回収されました。そしてすべて終わるまでスマートフォンの利用も許されません。

ぼくは三番目に走ることになりました。

雪が降るという予報は、夕方の短い時間帯に高確率でやってくるとのことでした。しかし検定中はいっそ清々しい快晴です。小屋は南向きに一面の窓がついていて、お昼の日差しが差し込んで暑いくらいにぽかぽかしています。

一番手の、小型二輪の受検生がまず出ていって、正午のチャイムが鳴って検定が始まるのを待っています。しばらくの待ち時間。人当たりのいい検定員は沈黙をつくらないで、バイクはもう買ってあるんですか、と世間話の種をまいてくれました。ひとりはホンダの CB か GB か、はっきり聞き逃してしまったけど、新車を買ってもうすぐ納車だそうで、景気のいい話です。もうひとりはしばらくレンタルを乗りながら様子をみるとのことでした。

そうしているうちにひとりめの試験ははじまり、おわり、ふたりめの試験もはじまりました。先に出た彼らが近くを通っていくのを小屋のなかからぼーっとみたり、エンジンの音が気持ちよく響くのをきいていました。

ぼくの検定は、念入りにみられているとおもうと緊張せずにはいられず、いつもより身体に力がはいっているのを感じました。発車時の儀礼的な確認事項をもらさずやることをとりわけ意識して、発車直後のクランクを丁寧に通過することに精力をそそぎました。クランクを抜けたあとで、道なりのコースをカーブを交えながら走るうちに、だんだんとアクセルとブレーキの感覚をいつものようにおもいだして、あとは気持ちよく走りました。気持ちよく走るあまり、緊張のせいというよりは気の緩みのために、左折で踏切に侵入したあとの直進でウインカーを切り忘れるミスがありました。とはいえ、それを除けば、心配していた急制動もたしかに 40km/h を出し切ってから余裕をもって停車することに成功して、緊張しながら渡る平均台も落ちずに通過しました。

無意識の大失態によって強制失格とされなければ大丈夫だろうが、無意識の失敗がどこにあるかは教えられない限りわからないので、もうどうしようもないや、とおもってのびのびと終えました。

最後の受検生が大型の検定を終えるのを待って、小屋を出て最初の待合室に戻されます。

ヘルメットを返却しにいきながら、どうでしたかねえ、いやあ緊張しちゃったしわかんないっすねえと声を掛け合うと、大型の受検生はいちど平均台で足つき失格となってしまって、きょうが二度目の受検だといいます。きょうは大丈夫だとおもいますよ! と根拠なく励ましながら、ぼくは自分自身のことにそれほど自信をもっていないのもまた事実なのでした。

午後一時。検定員室というところにひとりずつ呼び出されて結果が発表されます。呼び出し順は受検の順序です。検定員室と札はかかっているけど、ドアは開けたままで発表が進むので、前のふたりが無事に合格していることはわかりました。そしてぼくも合格と知らされます。「うわあ、再履修でまたお世話になりますっていう準備して待ってたのに!」と冗談をいったら「いやいや、メリハリあって上手でしたよ!」と教習所にしては豪華なリップサービスまで受け取らせてもらいました。

もっとも、ウインカーの消し忘れは指摘のうえ注意を促されて、配達用のスクーターがウインカーを消さないまま直進しようとして、あのスクーターは左折するはずと合流してきた四輪車と衝突間近だったのをこのまえ目撃したという逸話を聞かされました。それか BMW のいいバイクなら、四輪車みたいに曲がったあとウインカーを勝手に消してくれるからそういう車両を選ぶのもひとつだけど、まあ自分で操作するのも醍醐味だから安全運転してくださいね、とのことです。

四人目の、前回は失格だった大型二輪に再チャレンジしたひとも受かりました。四人で受けて四人とも合格して、景気のいいグループだったとおもいます。

最後に別室に移動して、卒業証明書の発行を受けて、免許試験場での手続きの案内をされました。教習所の顧客体験アンケートをうながされて、いいことだけを書きました。週末の受検だったからそのまま免許試験場に直行して交付してもらうことはできなくて、雪が降り出すまえに帰るだけでした。

駅前にある人気の町中華でお祝いに中華そば半チャーハンセットを食べようとおもったけれど、みたことのない長さの行列ができていて、並びもしないでに電車に乗りました。最寄り駅まで帰ってきたあとで、タイ料理屋さんで大盛りのパッタイを食べました。

夕方から冷たい雨が降ったようです。雪かどうかはわざわざみませんでした。