日曜日は横須賀に日帰り旅行にいった。

前の晩に本を読んでいて、横浜をすぎると景色ががらっと変わるという話をみた。東京で夜空をみると、いちばん明るいいくつかの星だけがみえて、そのあいだにあるはずの星はみえないという話をみた。たぶんそのふたつの印象がくっついたんだとおもう。ひさしぶりに横須賀にいってみようとおもいついた。車を借りていこう。美術館にいこう。戦争の遺跡をなんかみよう。海をみよう。車を止めて星をみよう。

何時にでて何時に帰るとか、レンタカーの手配をどうするとか、具体的に考えはじめたらすこし面倒くさくなって、別に行きたくなければ行かなくてもいいわけだけれど、この週末にいかなかったらそのまま年末にむかってどんどん出かける元気は余らなくなっていく気がした。行かなくてもいいにせよ、行こうとおもったことそのものを忘れてしまうことを想像したら物悲しかった。寒いのに出かけるのもおっくうながら、これからもっと寒くなるぞ、そうなってからではどこにもいけんぞ、と言い聞かせて出かけることにした。

気がはやったか早起きをした。早起きしたときの癖でランニングをした。走りきったあとに、そうだきょうは横須賀にいくんだったとおもいだした。最寄りのレンタカーを調べて、当日中に返却するコースなら想像の半分の金額で借りられることを知った。ただ、早起きした日にひとり車で遠出して、夜までに無事帰ってくるための体力を温存できるかあやしかった。それで電車でいくことにした。

最後に横須賀にいったのは2018年だった。鎌倉に一泊して、横須賀線に乗ってきて、バスで渋滞のなか一時間かけて横須賀美術館にいった。なんの展示をみたのかは忘れてしまったけど、晴れた日にいって最高に気持ちのいい美術館だったことはおぼえていた。そのときのことをおもいだして、米軍基地の見学日といっしょに調べてみたりしたことは三度くらいあって、結局いちども実現させなかった。

お昼前に横須賀中央駅についた。カレーを食べようとおもった。海軍カレーの店と、五年前の夜にはいった「ベンガル」とが近くにあることは地図でたしかめてあった。どちらにしようか決めないままちょっとうろついてみて、「ベンガル」にした。

ふたりの女性がカウンターのなかに立っていた。カウンターに沿って左のほうにもう何人かのお客さんがいて、右のほうにはまだ誰もいないから、なにもいわれなかったらなんとなく距離をとって右にいこうとしたところ、「こちらにおかけください」と左から詰めて座らされた。コートを脱いで座ったあとで店内をながめて、たしかにこんなお店だったとすこしおもいだした。誰といっしょに来たのかは鮮明だ。でもどのカレーを食べてどんな話をしたのかはおもいだせなかった。

ポークカレーのジャーマンソーセージ載せを食べた。甘口を選べるのがポークだけだったから。

Buddhist Altars

Classic or Modern?

と通り沿いの墓石屋のガラス窓が言っていた。米軍にでも売ってるんだろうか。

三笠公園は、戦艦を展示していた。日露戦争の由緒ある遺物らしい。猿島いきのフェリーが運行していたけど、猿島のことはよくわからなかったし、それよりも古着屋をみてまわることにした。

銅像が立っていて、その脇に碑文があった。皇国うんぬんと書いてあるところに子どもたちがよじのぼって遊んでいた。自転車置き場は「東郷平八郎サイクルスタンド」と呼ばれていた。

軍艦をつくる技術者はどういう待遇ではたらいていたんだろう、平均よりはいいほうだったんじゃないかな、と想像した。大義のためにはたらいてやりがいは十分だっただろうか。でも遅かれ早かれ破壊されて沈められる運命のものを作ってかなしくなかったかな。

どぶ板通りで服をみた。いいかんじの軍用ジャケットを売っているお店があったけど、その場でぽんと買うには高すぎた。バイクに乗るようになったらほしくなっちゃうかもしれない。それか逆にこってりしすぎてて恥ずかしいかもしれない。

駅前のデパートビルにワットマンがあった。神奈川にだけあるリサイクルショップで、よってみたら中学生のころによく中古ゲームを眺めにいったお店に雰囲気が似ていて気にいった。探せばなんでもあるお店だった。

ローファーのかかとで地面をつかつか叩きながら肩で風きってあるく自身に満ちた若者がいて、思いのまま棚のあいだを練り歩いて、「うわっ」「やばっ」「みてよ」と周りに聞かせて存在感をアピールするようにいいながらほとんど足も止めないで通りすぎた。もうひとりの若者がそれに付き従っていたが、ボスと従者というよりはあくまで親友ふたり、持ちつ持たれつという関係にみえた。

その感じも中学生のころにみた景色に似ていた。高校の思い出もすこし混ざっている。なにもしていないなりの充実。強さと弱さの見え隠れ。簡単につくったけど簡単につくりなおせない友情。

ふたりぐみは『キッズ・リターン』の主人公たちに似ていた。

駅前に和菓子屋さんがあって、本店と書いてあったからたぶん地元のお店なんだろうとおもって、どらやきをふたつ買った。駅のちいさいアーケードにたいやきやさんがあって、栗のはいったやつをひとつ買った。高校生がちらほら買い食いしていた。詰め襟に学生帽をかぶってパリッとさせてた。すこしも着崩さないで窮屈に着ていて立派だった。

京急の快速に乗ったら大混雑だった。すっかり疲れてしまって立って帰るのがきつかった。横浜から座れたとたんにうとうとして品川まで帰ったら五時前なのに真っ暗だった。