ヒューマントラストシネマ渋谷でやっていた、シャンタル・アケルマン映画祭に行って、 1986年のミュージカル映画を観た。

カラフルで実用的な衣装を着た若い(白人の)女性たちが、美容師の仕事道具をぞんぶんに使いながら歌いまくる予告編を観た。底抜けに楽しそうな様子と、すこしポップなパンク曲の響きが耳に強く残って、よく知らない監督ながら劇場に観にいくことにしたのだった。

そのように期待していながら、あまり前向きな感想を持つことはできなかった。嫌悪をもよおしたわけでもないのだけれど…。浅はかな行動とゴシップの繰り返しは、それを奨励する若者文化を揶揄しているともとれる…かもしれないが、実のところは特段に風刺が効いているともおもえず、ただ中身のない軽い意味だけが通り過ぎていくような映画だった。

たくさんの女性たちをフィーチャーして、いくつかの男性像の小物ぶりを示すやりかたがみえる。衣装もいい。個性にも豊かである。作るぶんには楽しい映画だったことは強く想像できるのだが、観るほうには同じだけの熱量は共有できなかったということだろうか。なんとなく楽しいというだけの映画は優れて存在価値のあるものだけれど、いまのぼくはそういうスタイルを求めていなかったという不調和があったのかもしれない。

予告編で流れていた特大のポップスを除いて、印象に残る歌がなかったこと。主人公格のリリの顔がいまいち印象に残らないこと。もっとも印象に残ったのが、ギャングのジャンという中年男のまずそうなマシュマロみたいな顔であったこと。そういう小さな打ち損じ感がかさなって、いい後味を残せなかった。エンドロールでテーマソングの弦楽器アレンジが流れるときに、あまりにも録音の質が低すぎて劇場のスピーカーをキーキー言わせていたこともまずかった。