日曜日に東京・春・音楽祭のベンジャミン・ブリテンを聴きにいった。会場ははじめての東京藝術大学奏楽堂。
「ベンジャミン・ブリテンの世界V」と題されているのは、この音楽祭でブリテンを取り上げる連続シリーズの五回目にあたるからだという。そしてこの日のプログラムはそのシリーズの最終回として、オーケストラ曲をあつかう。
演目は「チェロ交響曲」「シンフォニア・ダ・レクイエム」「青少年のための管弦楽入門」の三曲。それぞれの演奏前に、指揮もつとめる加藤昌則さんがレクチャーをおこなって、観客はそれを念頭におきながら実演を聴く。作曲家の立場にたって、作品のどこにブリテンの工夫が与えられているのかを惜しげもなく披露してくれるというのは、めったにない機会だった。
はじめてブリテンの作品を生演奏で聴いた。その名前を知ったのは、新宿のタワーレコードを物色していたときのことであった。作曲家の棚のインデックスになぜか地域名が混ざっているようだ、と近づいてみたら、それがファミリーネームであったのだ。作品にはじめて触れたのは、 Spotify の Discover Weekly で聴いた「青少年のための管弦楽入門」だった。一聴して気に入ってプレイリストに入れた記憶がある。
きょうの「青少年のための管弦楽入門」では、俳優の中嶋朋子さんがナレーションを務めた。もともと子供向けに音楽振興をはかる映像作品のために作曲された作品で、オーケストラの楽器をひとつひとつ取り上げながら進行する構造になっている。まずオーケストラ全体を、弦楽器と木管楽器、金管楽器に打楽器と四つのグループにわけて、そのグループごとに各楽器を順番にフィーチャーしていく。協奏曲かあるいは小作品でもないときに、すべての楽器に注意をはらいながらオーケストラを聴くということはめったにないことだ。管楽器はジャズで覚えたくちだから、オーボエという楽器の音色と名前はじつはきょうまで対応していなかった。それを学ぶ機会となったこともうれしい。
「シンフォニア・ダ・レクイエム」が日本帝国へのあてこすりをはらんでいることもあわせて、「青少年のための管弦楽入門」のような表題をつけるのは、どこかモンティ・パイソン的な諧謔趣味であるのだとおもっていたのだけれど、かえって大真面目に青少年のために作曲しているというあたり、底知れない態度であると感じた。冒頭の主題はバロック時代のイングランドの作曲家から引用しているということも、終盤のフーガが最盛を迎えているときにふたたびその主題を回帰させて興奮を誘うところも、大胆に知的なやりかたでほれぼれとする。