黒澤明の『隠し砦の三悪人』を観た。1950年代の黒澤作品はこれが最後で、1960年の『悪い奴ほどよく眠る』の前作になる。
これは『スター・ウォーズ』を観る前に、見比べてたのしむことができるよう選んだ。はじめての鑑賞ではないけれど、おもしろく観た。キャラクターの造形ははっきりと立ちながら、文芸的な追求を目的としない軽やかさから、娯楽映画としてたのしく鑑賞した。
国立映画アーカイブの『脚本家 黒澤明』で、この映画の脚本が四人の共同執筆であることを知った。菊島隆三、小国英雄、橋本忍、そして黒澤が静岡の旅館にこもって、即興的な執筆と推敲のプロセスを踏んだということらしい。その草稿と、推敲プロセスを電子的に表現した展示が展覧会では公開されたようだ。
作品の外側での逸話をさておいても、この映画は独特なたたずまいをもっている。最初のカットは、ふたりの百姓が荒野をさまよう様子を、背中から撮る。そして彼らのユーモラスな罵り合いをみせる。どこか演劇的な立ち上がりである。
アクションにも充実している。六郎太が両手で刀を握ったまま手放しで馬を疾走させる躍動感のように派手なショットもあるし、ふたりの百姓が険しい岩山をぜいぜい言いながら登るところも、運動の過酷さがありありと出ている。終盤のターニングポイントとなる火祭りの描写は、激しく燃え上がる炎を中心にして大所帯が踊り狂って乱れる様子が収められていて、ダイナミックなことこのうえない。
田所兵衛は端役のようにしてあらわれて、最後にもういちど見どころを持つ。「ひとの命は火と燃やせ」「よし、燃やすか!」「裏切り御免!」というモノローグは、彼一人の心情のうつろいを言い当てていて、爽やかな後味を残す。