前半部はスティーブ・ビコの若い晩年と死、後半部は彼の生涯を国外に伝えようと南アフリカからの亡命を目指す白人ジャーナリストの逃走劇を描く。1987年の映画。

思慮深く、物腰は柔らかく、それでいて強力な信念を持った若いリーダーに、こちらも若く穏やかなカリスマを持ったデンゼル・ワシントンがチャームを吹き込んでいる。英語の話しかたの、丸みのある母音と叩くアールの音が印象的だった。知らない訛りであるからであるかもしれないけれど、人格を反映した自然なアクセントの演技だとおもった。ジャーナリストとの出会いは1975年に起こった。

その死は突然やってくる。1977年8月、彼は逮捕される。暗い牢獄に弱く赤い炎色がみえて、不気味な影だけがみえる。翌月、白人の顔が映し出され、脊椎のひどい損傷を診断する。倒れた黒い身体がわずかに示唆される。ビコは殺された。実際のところ、映画の折返し地点で不意に訪れるその死は、避けられないとはいえもっと先にやってくるとおもっていたから、いったいこれからどうするのだろうとまるで僕自身が心の支えを失ったかのようなショックがあった。

ジャーナリストと彼の家族が被る脅迫、そして彼らの脱出は、スリリングなものとして楽しめる。映画としてはじゅうぶん楽しかったはずなのだが、ビコがいなくなってから残りの時間が地位ある白人の物語に当てられるのは、終わってみて腑に落ちないところもある。白人種は味方だと印象づける操作がおこなわれていないかといぶかしんでしまう。とはいえ苛烈な隔離政策がまさにおこなわれていた時代に描くことのできる融和とは、これが限界であったのかもしれない。製作をそしることはできない。