自転車のサドルがガタガタになっていた。こぐと腰のトルクに合わせて尻の下でゆらいで、ズルズルストンと落ちるようになっていた。暑さでバカになったかと笑い話になればいいものの、まれに起こるだけの不調だったものが徐々に頻度を増して、不快であるだけでなく危険をもよおすまでになったので、自転車屋に持ち込んだ。家を出るときにはまだ腰を乗せることができていたものが、駅前に向かうたかだか10分のドライブで決定的な崩壊を遂げて、到着するまでには片手で容易にヌルリと着脱できるようになっていた。そうなってはもう乗っていられないので、炎天下を押して歩いた。

冬に買ったものが暑さに連動してダメになったので、安いメーカーに特有の劣化だろうかと想像していた。そうであれば、レバーを絞って固定する方式のサドルをやめて、パイプの部分に穴を開けて支え棒を通して固定するように改造してもらおうかとも。しかし二時間のメンテナンスが明けると、整備士には問題なし、油をさして緩んだネジを締めておきましたとだけ伝えられた。たしかに固く安定するようになったし、サドル高を調整しようとすると片手ではとても操作できないほど堅牢になっている。定期的にメンテナンスに訪れることと、それとは別に空気圧のチェックを欠かさないことを指導されて、帰ってきた。

素人からみると機体そのものの不可逆な故障とおもわれたものが、専門家の手にかかれば簡単な処置で解決することを見せつけられた。同時に、暑さに原因があると推測してそれを責めていたこちらの浅はかさを情けなくおもった。餅は餅屋。