全16回をビンジウォッチした。

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線形変換、行列式、クラメルの公式、基底、固有ベクトルなどといった、既知の抽象化された定理がどのような機能を持っているかを、ひたすら二次元空間における具体例としてビジュアライズして、直観として示してくれる。あくまで一般性を前提にして、そのもっとも単純化された例として二次行列を題材に講義をしてくれるので、 “わかった気にさせられている” ようでいて実は大事な説明を捨象しているような違和感はなかった。

入門レベルにはうってつけである。もっとも、まっさらな状態で臨んで理解できるかはわからない。固有名詞としての公式とその演算手順を知ってはいるが、それが具体的にどういう意義を担っているのかを飲み込めていない、という学生には適した教材であった。僕はまさしくそのような者として、知識の補助線を与えてもらった。これからもときおり立ち返ることになるだろう。

線形代数に限らず、ある体系に入門するというのは難しいことである。はじめから核となる考え方だけを取り出して、それをわかりやすく提供するということは、おそらく不可能である。いちど圧倒され、途方に暮れた経験があって、そのうえで基本に立ち返ることで、はじめて入門できた気になれる。

落語でも板前でも音楽でも、なんでもいいが、はじめは修行からはいる。師範の指導を言語の形式としては理解できても、行為としては理解できないフェーズがある。達人の挙動はいかにもシンプルにみえるが、その優雅は訓練のたまものであり、駆け出しの徒弟に模倣できるものではない。結局のところ、基礎の動作に立ち返って訓練することが常に必要である。

その基礎にあたるものが、線形代数においては二次三次の空間での具体的な機能を体得することであって、これなしに高次の抽象化に臨んでも、跳ね返されるだけなのだろうと感じた。しかし跳ね返されるのもまた貴重な学びであるという逆説もまた真理である。そこがおもしろくもある。

あきらかに自分より強い相手に挑んで、叩き潰されることによって、実力を知る。実力を知ったうえで修行をしなおして、自分を鍛える。そういうスポーツ根性が、よくも悪くも必要なようにみえる。これが唯一の道ではないにせよ、僕にとってそうやって訓練することは楽しい。